地域の中核医療機関として災害などにも対応できる病院でありたい

― 淀川キリスト教病院様
2024.05.15
全人医療を理念としている、大阪府の淀川キリスト教病院様。戦後より一貫して大阪・淀川エリアの地域医療を支えてきた総合病院です。2023年のリニューアルでは、家具の一新を行い、あらゆる災害などの際にも設置している家具をフレキシブルに稼働できるように、大型椅子から個別の椅子の導入を実施。これによってレイアウトを変更しやすくなり、高い機動力が備わりました。なぜ、当社の家具の導入を決意されたのか。その理由と、これまでの課題や導入当時のこと、導入後の変化についてお話を伺いました。

新型コロナウイルスの流行をきっかけに課題と直面
災害などにも対応できるフロア体制へ刷新

― 2023年に改装を実施する以前の話をお伺いします。2012年に、現在の場所へ病棟を移転されていますが、どのような理由だったのでしょうか。

一番の理由は施設の老朽化に伴うものでした。また、各診療科の建物が分散された形で建てられていたため、各施設の機能を一つの場所に集約したい、という願いもありました。移転および新棟開設により、周産期医療、救急・救命医療、終末期医療を三本柱に据え、総合的がん診療や脳・心臓・血管診療など、地域に根差した医療を行う地域医療支援病院を目指していきたいと思っていたのです。以降は、今日まで地域の救急医療拠点としても機能してきています。

これまでの課題について語る、総務部長 杉谷さん

― 新型コロナウイルスが流行した時期も治療拠点となっていたそうですね。

はい。コロナウイルスが流行し始めた2020年以降は、当院内で患者の診療にあたっています。流行ピーク時は院内では対応が間に合わないほど外来スペースが不足しており、駐車場スペースにて発熱外来の受付をしていました。その時に災害時対応がもっとフレキシブルにできる院内スペース作りをしていかなくてはならない、と感じていたのです。

― そのフレキシブルなスペース作りが、病院さんの抱えていた課題だったのですね。

2012年に移転開設した際にあつらえた家具は、見た目はとてもシックで重厚なのですが、決して災害時に向いたものではありませんでした。ソファそのものが重たくて、職員が簡単に移動させることができないという欠点があったのです。

入れ替え前の1階中央エントランス部。2012年に導入したソファ

入れ替え前の1階中央エントランス部。2012年に導入したソファ

なぜ家具類を移動するかというと、仮にトラブルや災害が発生した場合は、院内の共用フロアを利用して、トリアージ対応をしないといけないからです。これは救急告示病院として不可欠なこと。しかし、重厚な家具がフロアを占めていると、そのような非常時に職員がフレキシブルに動かせません。コロナウイルスの流行をきっかけに、あらゆる災害にも応じられるように考えていくようになったのです。これが一つ目の課題でした。

現在の1階中央エントランス部。大災害時など緊急を要する際には、家具を撤去できるようにしている

現在の1階中央エントランス部。大災害時など緊急を要する際には、家具を撤去できるようにしている

そして二つ目の課題として、座面がファブリックであったため、清掃のしにくさがありました。新型コロナウイルスのような感染症の場合、やはり衛生面を保つために、座面のこまめな消毒や拭き上げをしたいものですが、それがうまくできず、もどかしい思いをしていました。家具の座面がビニール製やそれに準じる素材だったら、もっと衛生面を保てるのに、という思いを常に抱えていましたね。

― 災害時にも強い病院でありたい、ということが改装の目的のひとつにあったのですね。

そうですね。同時に、移転後10年以上が経過していたので、外来スペースにある家具類の入れ替え時期が来ているのでは、という議論もありました。やはり10年経過すると単純に損傷が目立ってきます。
そこで、院内の担当者が集う外来療養環境・サービス向上プロジェクトでは、大きな家具より、コンパクトで可変性のあるもの、重厚感よりもライトな色合いとデザイン、かつ誰でも移動をさせることができることを理想に掲げました。

明るく爽やかなカラーの小児科付近のスペースに。ビニール素材ゆえに消毒や拭き上げがしやすい

明るく爽やかなカラーの小児科付近のスペースに。ビニール素材ゆえに消毒や拭き上げがしやすい

子どもが転落しないように高さが低く、かつ角がやわらかな仕様のソファーを採用している

子どもが転落しないように高さが低く、かつ角がやわらかな仕様のソファーを採用している

限られた時間の中で、課題を整理し改装を実施

― 入れ替え検討、及び入れ替え作業に伴っては、どんな点が難しかったでしょうか。

このプロジェクトを3ヶ月で完結したいという目的がありました。しかしオリバーさんにご依頼することが決まったのはプロジェクト完了日の4ヶ月前。入れ替えまで、残り期間は3ヶ月しかありませんでした。その中で検討を重ね、経営会議にて決議を取らなくてはならないので焦りを感じていましたね。それなのに、何から手をつければいいのかわからないという困った状況でした。

当初は何から手をつければいいのか、課題をどう整理すべきかと困惑したと語る、大杉さん

― そんなとき、どう解決していきましたか。

まずは診療科目によって適切な待機の座席数が異なっていたため、その洗い出しを行いました。その上で席のレイアウトをオリバーさんと共に決定しました。ここまでで2ヶ月ほど時間を要しています。

そこから先、今度は病院の経営会議にて私たちが説明をする必要があるのですが、何しろ素人なので口頭では説明が大変難しく…。そこでオリバーさんには説明内容を可視化したイメージ図の作成をしていただいたり、想像や抽象化されやすい配置やデザインなどの面を解決するためのサポートをしていただいたりしました。同時にわからないことは噛み砕いて説明をしていただき、とにかく助かりましたね。

2階の吹き抜け部分付近。椅子を動かして手すりに登って転落する可能性があることを考えて、あえて可動ができない重厚な家具を採用

2階の吹き抜け部分付近。椅子を動かして手すりに登って転落する可能性があることを考えて、あえて可動ができない重厚な家具を採用

― 当社に依頼して良かった点などはありますか。

一番は、私たちの解決しなくてはいけないことに、丁寧に寄り添ってくれたことですね。根気よく私たちのしたいことを丁寧に紐解いて聞いてくれて、理想的なフロアに仕上がったと思っています。

診察室前の共用部。一人がけの椅子のため、混雑している診療科目で待合席が不足している箇所があれば、移動させることができる

診察室前の共用部。一人がけの椅子のため、混雑している診療科目で待合席が不足している箇所があれば、移動させることができる

移転の際の数々の思い出について話る、大杉さんと上田さん

これからも災害に強い地域医療拠点としてアップデートし続ける

― 実際のフロア入れ替え作業はどのように行いましたか。

実際に実施したのは、3月下旬の土日の2日間です。当院は救急告示病院なので、救急外来に差し支えがないようにするためには電源を落とすことはできません。また、患者さんの受け入れを止めることもできないので、そこに気を遣いながら実施しました。

そうした事情から、家具類は一斉に入れ替えとはせず、フロアを区切って、パーツごとの入れ替え計画を立てて綿密に行いました。当時は新型コロナウイルス感染症の流行がピークの時で、外来や救急の対応だけで、医療関係者および病院職員は逼迫していました。そこに入れ替え作業が重なったので、目の回るほどの忙しさでした。今では良い思い出です。

家具入れ替え時のことを振り返りながら語る、医事部長 前村さん

― 実際に改装してみてどのように感じていますか。

フロア内にすっと溶け込んでいて、前からこのような形だったと思えるくらいです。最初は新しくなることに違和感があるのかな?と少し不安でしたが、実際に景色が変わってみて「前からこんな感じだったのでは」と感じるくらい何の違和感もなく、とても不思議でした。

これまで、フロア内の家具は長椅子が中心になっていました。特にコロナ禍は、ソーシャルディスタンス確保のために席数がいつも以上に設けられず、持て余さざるを得ない状況でした。そこで今回ひとりがけの椅子を増やす形にしたのですが、おかげで多くの方に腰かけてもらえるようになったことがとても嬉しいですね。またひとりがけの椅子の場合、持ち運びができることから、混雑している診療科目の増席のために、椅子の移動が簡単にできる点も魅力です。

― 今後は病院としてどのようなことを目指していきたいですか。

今回は感染症流行中ではあったものの、トリアージ対応のようなことはしませんでした。しかし、不可避なことが多い時代。何が起きるかわかりません。災害時に強い病院であるために、いつでもフレキシブルに動けるようにこれからも整えておきたいですし、什器や設備もアップデートしていきたいです。そのために、またオリバーさんに力を借りたいですね。

(後列 左から)藤原 寛 院長、笹子 三津留 理事長、北村 愼二 事務局長、杉谷 肇 総務部長
(前列 左から)上田 陽子 副主任、大杉 寛子 課長代行、前村 哲人 医事部長

※2024年4月時点の内容です。

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