約90年の歴史ある病院が挑む。インテリアが導く働き方改革

― 秦病院様
2024.10.22
地域に寄り添う病院として質の高い医療を提供し続けている、福岡県の秦病院様。約90年の実績を持つ同院はさらなるチーム医療を目指し、「働き方改革」を土台とした大規模な改装を試みました。
2024年1月に完成した入院病棟に大きな変革をもたらしたのは、「MSC室(メディカルスタッフセンター)」と「壁付けタイプのチャージスタンドのAirMo」。これにより、部署間のコミュニケーションが活発になり、スタッフの業務効率も向上しています。
なぜ歴史ある病院が働き方改革を土台とした改装に踏み切ったのか。改装後、働き方はどのように変化したのか。理事・事務長・看護部長・地域連携室のスタッフの方にお話を伺いました。

老朽化した建物が抱える課題と大規模な内装が目指すもの

改装前の外来病棟受付

― 入院病棟は2024年1月に完成し、現在は外来病棟も改装の最中ですね。なぜ、大規模な改装を決断されたのですか。

齋藤さん(地域連携室 主任):建物自体は約55年経っており、現代の医療機能に適していなかったからです。動線が悪かったり部屋が細かく区画分けしていたりして、他部署とのやり取りを頻繁にする際は連携が取りづらい課題がありました。例えば、医師に相談するために医局へ行き、その後リハビリ科や栄養科にも足を運ぶなど、情報収集に時間がかかっていたため効率は悪かったです。

田中さん(看護部長):入院患者さまが過ごす環境も同様です。2人部屋であってもベッドの間隔が狭く、1台のベッドを部屋から出すにはベッド2台を動かさなければいけない状況でした。特に人工呼吸器を使用する患者さまにとっては装着する器具も増えるため、狭く感じたと思います。

― その上で、改装にあたり特に重視されたポイントは何ですか。

鳥越さん(理事・事務長):最も重視したのは、「患者さまの療養環境の改善」と「スタッフの働きやすさ」です。古い建物を綺麗にし、患者様がゆっくりと過ごせる心地よい空間を目指しました。同時に、スタッフ間のコミュニケーションを活性化させて、多職種連携を強化する空間づくりにも力を入れました。スタッフが働きやすい内装に一新することで、患者さまの安心感や質の高い医療にもつながると考えたのです。

改装ポイントを語る、理事・事務長 鳥越さん

― 病院の働き方改革において、まずは内装から着手したのですね。改装にあたり、当社にご依頼いただいた理由を聞かせてください。

鳥越さん:オリバーさんの名前は以前から知っており、実際にショールームを見学したのがきっかけです。例えば、MSC室に導入したハイテーブルは一目惚れでした。「スタッフが集まりやすく、カルテを囲んで相談しやすい」と思い、取り入れることにしたのです。また、床の色は当初一色の予定でした。しかし、ショールームで床の色を張り分けたデザインを目にしてブラッシュアップしました。

― 当社のインテリアや家具を実際に見て、気に入ってくださったんですね。

鳥越さん:そうですね。それに、オリバーさんのご提案に安心感があったのも決め手です。私たちが「こんなイメージで」と伝えると、さまざまな商材や設計案を提示してくれました。医療現場の特性も理解されていたため、単に美しいだけでなく機能性と効率性を両立させた設計を提案してくれたのです。頻繁なやり取りと細部にまでこだわって一緒に検討してくださった結果、働きやすい理想の空間が実現したと感じます。

部署の垣根を越えたコミュニケーションを促す「MSC室」

仕切りがないMSC室は、働き方改革の要。1階に設けるほど必要性と重要度が高かった

― 各部署がワンフロアで勤務するMSC室は、想像以上にオープンな空間であることに驚きました。導入した目的を教えてください。

鳥越さん:各職種の専門性を活かしつつシームレスな医療を実現するには、他部署がワンフロアで働ける内装が必要不可欠だったからです。というのも、病院ではさまざまな専門職が働いていますよね。それぞれが高度な知識と技能を持っていて、自分の職務に誇りを持って取り組んでいる。しかし、専門性が高いゆえに、時として部署間の連携がスムーズにいかないこともありました。だからこそ、物理的な壁を取り除けば、心理的な距離も縮められると考えました。

― 開放的な空間により、「誰が・どこで・何をしているか」は、ひと目で分かりますね。

鳥越さん:そうですね。例えば、医局が仕切られた空間だったら医師の様子が分かりにくく、入室しにくいと思います。しかし、患者さまに関することの場合だと、その入りづらさは弊害になる。医師・看護師・コメディカル・総務・事務・地域連携など、他部署がワンフロアで働く空間は円滑なコミュニケーションが取れるだけでなく、最終的に患者さまへ質の高い医療提供につながると考えています。

病院の7つの行動指針に則った行動を見かけたら、毎月1人1枚「いいね!ポイントカード」にコメントする取り組み。98名の全スタッフが必ず通る場所に貼っている

カンファレンスコーナーには可動式の家具を設置。床を切り替えることで、会議に集中しやすい仕様に

― 他部署がオープンな空間で働くことで、より「チーム一丸」になれそうです。MSC室の導入後は、どのような変化がありましたか。

田中さん:MSC室があるおかげで、異なる部署のスタッフが自然に会話している様子を目にします。例えば、カンファレンスコーナーでの会議は圧迫感がありません。従来は会議室内でコの字型に向かい合って座る形式でしたが、今はプロジェクターを中心に皆が同じ方向を向いて参加しています。スタッフも集まりやすく、より自由に意見を出し合える雰囲気になりましたね。

齋藤さん:オープンな空間であるため、進行中の会議内容は遠くからでも聞こえます。自分に関係ある議題や気になる内容は必要に応じて立ち見できるので、気軽に情報をキャッチできるようになりました。また、声をかけたい人がいたらすぐに呼び止めやすい環境も大きな変化です。以前よりコミュニケーションが格段に取りやすくなって効率よく働けていますね。

(左から)MCS室導入後の変化を振り返る、看護部長 田中さん 地域連携室 主任 齋藤さん

鳥越さん:業務の効率で言うと、会議の準備時間が大幅に短縮できたのも変化の一つです。以前は会議室に移動し、エアコンをつけ、プロジェクターを設置するなどの準備に時間がかかっていました。しかし今はMSC室内で即座に会議を始められるため、準備に費やしていた時間を他の業務に使えています。MSC室の導入により無駄な業務が削ぎ落ちているのも良い変化です。

話す距離が近くなるハイテーブル。電子カルテも設置することで、必要な情報を瞬時にキャッチしやすくなる

― MSC室に導入した設備はどのような効果をもたらしていますか。

鳥越さん:やはり中央に設置したハイテーブルは、コミュニケーションの要ですね。立ったまま気軽に打ち合わせでき、情報共有や相談がしやすくなりました。例えば、患者さまの状態について医師と看護師が素早く対応策を検討できたり、他職種を交えて電子カルテを見ながら即座に意見交換したり。全スタッフが通る場所でもあるため、会話が自然にはじまる光景は日常になりましたね。

齋藤さん:Webブース(個室ブースCAP-CELL Lite)はオンラインセミナーや遠隔会議では非常に重宝しています。以前は、土曜日の午後など比較的穏やかな時間帯でないと参加が難しかったのです。しかし、Webブースが導入されてからは曜日や時間帯を問わず必要なセミナーに参加できるようになり、より積極的に学ぶ姿勢が生まれたと感じます。

患者ケアの質を高める、壁付けタイプのチャージスタンド「AirMo」

病室の横に「AirMo」を配置できる壁付けタイプのチャージスタンド。1フロアに3箇所設置している

― 改装前も当社のワイヤレス医療カート「AirMo」を活用していただいていますが、新病棟では病室の横に壁付けタイプのチャージスタンドを配置されていますね。導入された理由を教えてください。

田中さん:ナースステーションに戻らず電子カルテを充電できるのが魅力だったからです。当院は、一般と医療療養を併せ持つケアミックス病院であり、急性期病院に比べて看護師の数は多くありません。その上、病棟のフロア面積は改装して広くなり、ナースステーションへ戻る時間も惜しい。少人数でより効率的な動きが求められると考えたため、いち早く導入を決めました。

― 導入後は、どのような変化がありましたか。

田中さん:患者さまへのケアの質や私たちの働き方が変わったと思います。以前は、患者さま対応の後はナースステーションに戻って記録しなければいけませんでした。とはいえ、少人数で患者さまのケアをしているため、戻るのが難しい状況もあったのです。しかし、今は患者さまの気持ちに配慮しながらすぐに記録でき、情報確認するにも時間はかかりません。スタンド周りの収納には、おむつ・病衣・手袋などをストックしており、緊急時でもきめ細やかな対応ができます。患者さまへ充実したケアを提供できるのはもちろん、結果として看護師の負担も軽減していると感じますね。また、病棟の安全面でも効果的です。以前は医療カートを廊下の真ん中に置きっぱなしにしてしまうこともあり、安全面に懸念がありました。しかし、今はカートを使用していないときは廊下の壁に戻せるため、廊下の妨げになりません。患者さまの通行の安全も確保できています。

― 実際に活用して、チャージスタンドにはどのような可能性があると感じますか?

田中さん:壁付けタイプのチャージスタンドは、急性期、回復期、慢性期と病院機能が異なってもそれぞれの現場のニーズに合わせてカスタマイズできると思います。実際、フロアが広くなっても限られたスタッフで効率よく動けており、結果的に多くの患者さまに迅速なケアを提供できるようになりました。引き続き患者さま中心のケアを向上させるツールとして、最大限に活用していく予定です。

内装改革により、新たなチーム医療の土台が完成した

スタッフの休憩スペースとして大人気の「学習兼リラクゼーション室」

― 入院病棟の改装から半年経ち、働き方にどのような変化がありましたか。

齋藤さん:他部署同士のスタッフが自然に交流する機会は圧倒的に増えたと思います。地域連携室の業務では、患者さまの入退院支援において院内連携が不可欠です。MSC室の導入により必要な情報をリアルタイムで得られるようになり、患者さまへの対応がよりスムーズになりました。話しかけたいスタッフの様子を把握しつつ、タイミングを見計らってアクションできる空間だからできることですね。

田中さん:看護スタッフの日々の業務において、医師や他部門とのタイムリーな情報共有が可能になりました。特に、医師が患者さまのご家族と電話で話している内容もMSC室で聞こえるため、それを踏まえたケアプランの調整ができる。ここで得た情報を看護スタッフにすぐシェアできるのは利点ですね。それに、改装直後は落ち着かない状況でしたが、今は自分たちの使いやすい病棟作りについて積極的に意見を出し合っています。協働の意識が強くなり、スタッフの気持ちも前向きになったと感じます。

― 2025年1月には外来病棟も完成しますね。今後の病院としてのビジョンを教えてください。

鳥越さん:スタッフが働きやすい内装に一新し、ようやく私たちが目指す「チーム一丸の医療」の土台が完成しました。今後は新しい環境を最大限に活用して多職種連携をさらに強化し、患者さま一人ひとりに最適な医療を提供できる体制を整えます。地域に開かれた病院として、地域住民の輝きを医療で支えられる存在になることが目標です。

集合写真

※2024年9月時点の内容です。

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