「看護師は座らない」という常識を覆す。
医療DXとセル看護提供方式®が導いた働き方改革と、「新型AirMo®」が支える現場

入院先の決定は10分以内、記録時間は約40%削減。京都医療センターのDX戦略
― 働き方改革において、京都医療センターでは2025年からDXを積極的に推進されています。まずは導入の背景をお聞かせください。
八軒さん(看護部長):患者さんにとって安全で質の高い医療を提供すること、そして職員がやりがいを持って働き続けられる職場環境を整えること。この2つを両立するために、業務の「ムリ・ムダ・ムラ」をできるだけなくす方針のもと、医療DXを活用した業務改革を進めてきました。その一環として導入したのが「コマンドセンター」と「チームコンパス」です。システムの導入に合わせて業務の進め方を根本から見直し、限られた人材を最大限に活かせる組織づくりを目指しました。
医療DX導入の経緯を語る、看護部長 八軒さん
― コマンドセンターとは具体的にどのようなものなのですか。
八軒さん:患者さんの病状や病床の運用状況、看護師の人員配置などをすべて可視化し、共有できるツールです。看護部長室や入退院支援センター、各病棟・部署に設置されており、4つのタイル(画面)で表示されます。タイルの種類は、病棟の入院・退院数や病床利用率をリアルタイムで把握できる「病床管理タイル」、患者さんの状態変化や重症度を表す「患者安全タイル」、病棟外での検査や治療の進捗を示す「業務進捗タイル」、看護師の勤務者数や稼働状況がわかる「看護繁忙度タイル」の4つです。どの病棟に何人の患者さんがいて、看護師の忙しさがどこに集中しているかなど一目で把握できるようになっています。
― 導入後、どのような変化がありましたか。
八軒さん:繁忙度が数値化されたことで、忙しい病棟へのスタッフの応援体制が取りやすくなりました。また、新たに入院される患者さんの受け入れ先を決める場面でも効果を発揮しています。当院は急性期病院のため、救急外来などから重症度の高い患者さんが緊急で運ばれてくることも多いんです。看護師の忙しさに加え、手術や検査の件数も含めて順位付けされるため、どの病棟で受け入れるべきかが即座に判断できます。結果として、入院先が決まるまでの時間は10分もかからないほどに短縮されました。
梅原さん(副看護部長):以前は、病床管理の担当者が電話でやり取りするか、直接病棟に見に行くしかなかったんです。病棟に問い合わせても「今は少し忙しいので、他はないですか」と言われ、何度も確認することがありました。今はタイルを見れば空床状況や忙しさが誰の目にも明らかなので、そうしたやり取りに時間を取られなくなりましたね。
コマンドセンター導入前のベッドコントロールの状況を語る、副看護部長 梅原さん
― チームコンパスについても教えてください。
八軒さん:チームコンパスは、看護記録を支援するシステムです。従来の経時記録では、観察項目を看護師自身が考えたテンプレートに沿ってその都度入力していました。一方、チームコンパスでは疾患・病期を選択するだけで必要な観察項目が自動的に展開されるため、経験年数を問わず見るべき視点が明確になります。ケア後に患者さんの状態を思い出しながら記録するのではなく、その場でタイムリーに記録を完結させる本来のあり方に近づけました。導入した年は、前年同月比で記録時間がおよそ40%削減されています。
セル看護提供方式®の定着へ。実践の中で見えたカートへのニーズ
― 看護部では、DX化導入の前にセル看護提供方式®にも取り組まれていますよね。導入した背景と狙いをお聞かせください。
八軒さん:やはり、患者さんのベッドサイドでケアする時間をできるだけ確保したかったからです。スタッフステーションに戻る回数を減らし、病室や病室前の廊下で記録やケアを完結できれば、患者さんの小さな変化にもタイムリーに気づけます。高齢の患者さんや重症度の高い患者さんが増える中、思いがけないタイミングで転倒が起きるケースも増えていたので、すぐに手を差し伸べられる場所に看護師が常にいる状態を目指しました。
尾中さん(看護師長):2022年頃に人員が大きく減った時期があったのもセル看護提供方式®を試みた要因の一つです。当時は固定チームナーシング体制で、看護師一人あたりの受け持ち患者数も増え、「時間がなくてカンファレンスができない」「先輩を探して相談する時間もない」という声が現場から上がっていました。
そのような中でこの方式があると知り、開発・導入した福岡県の飯塚病院に見学に行かせてもらったんです。「誰かやってみないか」という話になったときは、迷わず手を挙げました。期待した点は、患者さんの異変にいち早く気づいて対応できる環境づくり、「ムリ・ムダ・ムラ」をなくして時間を確保しながらやりたい看護を実践すること、そしてスタッフの笑顔を取り戻すことです。2024年から、各病棟に3つの拠点を設ける形で運用をスタートさせました。
飯塚病院を見学後、「セル看護提供方式®をすぐに取り入れたいと感じた」と話す看護師長 尾中さん
― 運用から2年経ちますが、どのような変化を感じていますか。
尾中さん:導入前後に万歩計で歩数を測った病棟がありましたが、動くエリアが限定されるため明らかに歩数が減っていました。その分、患者さんのそばにいる時間が増え、私が所属する病棟では転倒件数も30%ほど減りました。異変に早く気づけるようになり、せん妄の予防にもつながっています。これらの成果は学会でも発表させてもらいました。
八軒さん:リクルートの面でも効果を感じています。私は採用面接や病院見学の場で学生や求職者と話す機会が多いのですが、セル看護提供方式®を実践していること自体に興味を持ってもらえることが増えました。「常に視線の先に先輩がいるので心強い」という声もよくいただきます。見学の場でスタッフ自身がその魅力を語ってくれることも後押しとなり、「教育体制が整った病院で働きたい」という志望動機につながっていると実感していますね。
― 働き方改革を進める中で、医療カートについてはどのようなお悩みがありましたか。
梅原さん:セル看護提供方式®を始めた当初から、専用のカートがほしいという思いはありました。カート自体が重くて扱いづらい、必要な物品を十分に搭載できない、患者さんのそばで記録や説明をする際の身体的負担が大きいなど、実践する中で日々課題を感じていたんです。セルの拠点にワゴンは置いていましたが積める量が限られており、何度もスタッフステーションへ取りに戻る場面も多々ありました。
とりわけ課題があったのは、夜勤です。夜間に落ち着いて記録するには椅子を別途持ってくるしかなく、環境が整っていなければ結局スタッフステーションに戻ることになってしまう。加えて、セルの拠点は患者さんが通る通路にあたるため、安全確保も重要です。夜勤でセル看護提供方式®を定着させるには、専用のカートが不可欠だと感じていました。
― そのような課題があった中、AirMoを選定された理由をお聞かせください。
八軒さん:選定にあたって重視したのは、「働き方改革への貢献」と「セル看護提供方式®との親和性」の2つの観点です。前者ではスタッフの身体的負担を軽減でき、移動や記録作業を効率化できること。後者では患者さんのそばで看護業務を完結しやすく、必要な物品を搭載でき、座って記録がしやすい点を挙げました。
梅原さん:最終的には、セル看護提供方式®を実践しているスタッフが実際に操作性や機能性を確認しながら比較検討して、投票でAirMoに決まりました。個人的にはデザインがスタイリッシュな点が印象的でしたね。カートに椅子を収納できて、なおかつ椅子が独立している点も使い勝手がよいと感じました。というのも、カートと椅子が一体型の製品は、扱い方によっては壊れてしまうのではないかという懸念がありました。また、椅子を置きたい位置は人それぞれ異なるだろうとも考えたんです。現在は、夜勤の看護師を中心にAirMoを使用しています。
スツールとカートは独立。移動時はコンパクトに収納できる
身体の負担が減り、時間外勤務も削減。新型AirMoがもたらした現場の変化
― セル看護提供方式®の導入によって転倒が約30%減ったというお話でしたが、AirMoが加わったことで患者さんの安全面ではどのような変化を感じられますか。
久松さん(副看護師長):転倒リスクの高い患者さんには、行動を把握するセンサーをつけるケースがあります。ただ、センサーが鳴ってからでは対応が間に合わない場合もあるんです。今は患者さんのベッドサイドで座って業務ができるため、小さな物音でも気づけるようになりました。結果的に、転倒やその先の骨折を防ぐことができている実感があります。
尾中さん:そもそも、看護師が患者さんのそばで座って仕事するという発想がありませんでした。特に夜勤では、スタッフステーションに戻らないと座れません。それが、カートに椅子が付随していることで、体に負担をかけずに患者さんのそばで留まれるようになりました。看護師は座らないもの、という考え方が180度変わりましたね。
ベッドサイドで座って働くことの効果を語る、副看護師長 久松さん
― 座って作業ができることは、看護師の身体面にもよい影響がありそうですね。
久松さん:身長が193センチある私にとって、身体的な悩みが解消されたのは大きな変化でした。以前はカートの高さまで腰を曲げたり、足を広げて重心を低くしたりしながら記録していて。腰への負担が大きく、足を広げると患者さんや他の看護師から見た印象も良くなかったと思います。今は体が楽な高さまで上がり、座った際も自分の好みの位置に調整できるので、ずいぶん働きやすくなりましたね。
杉浦さん(看護師):従来のカートは高さが変えられず、私も前かがみの猫背の状態で記録していました。でも、AirMoはワンアクションで高さをスムーズに調整できるため、正しい姿勢が保てています。椅子自体も片手で持てるほど軽量なんです。座面も広く、ふかふかしている点も気に入っていますね。
天板は上下昇降しながら手前にスライドする仕様。膝が当たらず、誰でも楽な姿勢で記録できる
― 患者さんのもとへ向かう際の準備は、以前と比べてどう変わりましたか。
杉浦さん:充電コード類がカートの支柱内にまとまるようになり、床に垂れて絡まる心配がなくなりました。積載量も倍近くになり、以前は血圧計や体温計程度だったのですが、今は患者さんのもとへ持参する薬剤の予備なども載せられます。その分、物品を取りに戻る回数が減ったのでケアの途中で患者さんのもとを離れる場面も少なくなり、コミュニケーションの時間が増えましたね。
物品を取りに戻る回数が減り、患者さんとのコミュニケーションをとる時間が増えたと話す、杉浦さん
― 患者さんのそばで記録する際、以前との違いを感じる場面はありますか。
杉浦さん:パソコン2台分の奥行きがありながら幅はコンパクトなので、混雑した廊下や病室に入る際もスムーズです。また、上段の奥行きが広がったことで、書き込むスペースにも余裕があります。以前はパソコン1台分の奥行きしかなく、記録しにくくて。今は患者さんのそばでストレスなくタイムリーに記録できています。書くのを後回しにすることもなくなり、時間外勤務が減ったと感じますね。
尾中さん:実際、時間外勤務は1ヶ月の平均で数時間は減っています。以前は記録が理由で超過するケースがほとんどでした。セル看護提供方式®とチームコンパスによる効率化も重なって業務の「ムリ・ムダ・ムラ」がなくなり、結果的にケアの質も上がった。これが一番の成果だと思います。
(左)パソコンを置いても手元にゆとりがある天板。立ったままでも記録しやすい
(右)スツールを装着した状態でも、歩行の妨げにはならない
― AirMoの導入は、人材育成においても変化をもたらしましたか。
尾中さん:従来のカートでは、人材育成に十分な時間を割けない可能性があります。その都度スタッフステーションに戻るか、動きながら話すしかなく、やるべき業務を優先するとカンファレンスや指導の時間が後回しになりがちです。今は落ち着いて話せる環境が整い、人材育成に充てる時間を確保しやすくなりました。また、先輩がそばにいるのはもちろん、特定看護師の資格を持つ久松さんのように専門性の高いスタッフにもすぐ相談できる環境は、若手の成長にとって大きな意味を持ちます。
加えて、新しい設備を導入してもらえたことでスタッフの士気向上にもつながっている。成果の還元が目に見えにくい医療現場だからこそ、こうした投資の価値は大きいと感じています。
目指す看護のあり方を問い続けることが、働き方改革の出発点
― 一連の改革を進めるにあたり、京都医療センターが重視してきた考え方をお聞かせください。
八軒さん:まず「どのような看護を実現したいのか」という目的を明確にすることが大切です。当院も「最善の追求」をスローガンに掲げ、目指す看護のあり方を職員一丸となって考え続けている最中です。目的が明確であるからこそ、ツールや設備の導入もそれを実現するための手段として活きてきます。
こうした考え方の背景には、少子高齢化で働き手が限られていくという危機感があります。コロナ禍を経て医療従事者を志す方が減少している今、人材確保とDXの推進、この両輪を同時に進めなければいけません。看護師でなければならない業務とそうでない業務を見極め、タスクシフトを進めていく重要性も年々増しています。
決して簡単な道のりではありませんが、時間外勤務の削減やタイムリーな記録の実現といった小さな成功体験を積み重ねてきました。それが、職員全体がさらに「最善の追求」に向き合う原動力になっています。地域に求められる病院であり続けるために、何が必要かをこれからも問い続けていきたいと思います。
(左から)看護師長 尾中 昭之様、看護師 杉浦 みのり様、看護部長 八軒 美幸様、副看護部長 梅原 美加子様、副看護師長 久松 賢太様
※1 「セル看護提供方式®」は株式会社麻生 飯塚病院様の登録商標です。

