BMWの精神を体現したショールーム・コンセプト「リテール・ネクスト・デザイン」~サステナビリティへの取り組み~
デジタルツールの発展によって変わるショールーム体験
― 新しいショールームのコンセプトである「リテール・ネクスト・デザイン」の概要についてお聞かせください。
「リテール・ネクスト・デザイン」は、ドイツ本国で世界共通のショールーム・コンセプトとして構築されています。 従来は、入口でお客様を出迎え、受付をし、車両展示エリアへご案内。その後、商談テーブルに案内し、商談するというスタイルでした。
一方、新しいショールーム・コンセプトでは、Webの発展もあり、お客様は来店前にかなりの情報を得ているので、商品が見たい、ここを確認したいという「目的」を持って来店される。そうなった時に、従来のように順番にご案内するよりは、お客様がお店に入った時の “製品との出会いの瞬間” をより演出したいという事があり、「カスタマー・センチュリシティ(お客様中心主義)」という考えをデザイン・コンセプトの中心に据えています。店内に入ると、お客様の動線をいざなう吊り照明があり、その主動線となっている通路に向けて展示車両を配置し、お客様がまるでファッションショーのランウェイを歩くように “特別感のある空間“ を演出しています。
従来のように受付カウンターでお出迎えするスタイルではなく、店内に入るとラウンジが程よい距離で存在していて、そこに座っていただいてもいいですし、すぐに自分の好みの車の方に行っていただいてもいい、というのがコンセプトになっています。
“製品との出会いの瞬間” が演出されたショールーム
全国の店舗ごとに求められる“最適設計” 3Dシミュレーションが鍵に
― コンセプトマニュアルのローカライズ(日本版作成)業務と基本設計・設計監修業務を依頼いただきました。オリバーは従来のいわゆる“設計会社”とは違うように思います。どういったところを期待いただいたのでしょうか?
オリバーさんとは本社(東京)のオフィス家具を制作いただいたのが出会いです。オフィスに関してもBMWグループ全世界で共通のガイドラインが存在します。7~8割ぐらいは世界共通で、残りは国ごとに独自のものを検討することになっています。日本では、スタッフが集う「コラボレーション・エリア」を日本人が居心地がいいと感じられる空間にしたいということや、働き方のスタイル、例えばお昼を食べるときはどういう環境だったら社員同士の話が活発にできるか、といったことを考えて、独自に選定しました。難しかったのが、従来のオフィス家具のように硬すぎず、ラウンジほどくつろぎ過ぎない家具が欲しかったことです。また、デジタルツールを使用したミーティングやコラボレーションに適した環境を考えた時に、一から設計した造作家具が必要だったので、オリバーさんに製作いただきました。
その後に、ショールームの基本設計・監修の業者の選定があり、入札に参加いただいたのですが、プレゼンの中で、3D化した映像をつくるVRサービスのお話が印象的でした。多くの店舗がフランチャイズで、基本設計業務では、ディーラー様が完成後のショールームを具体的にイメージいただけるプレゼン力が問われます。ある程度はマニュアルに沿って店舗設計や家具も決定していくのですが、各店舗の条件に合わせてアレンジする必要があり、リアルタイムで3D空間を動かしながらシミュレーションできるツールは非常に活用性が高いと、魅力を感じました。
ビー・エム・ダブリュー株式会社オフィスのコラボレーション・エリア
車両近くのコンサルティング・スペース ショールームの新たな機能と体験を提供
― ショールームには素敵なラウンジがたくさんありますね。
ラウンジは、「コンサルティング・ステージ」と呼んでいて、車両のすぐ側に配置しています。
なぜこのような配置になっているかというと、お客様はまず、見たい車の近くに行きます。その後お話を伺う流れになりますが、その場所が車と離れていたら、途中で確認したい仕様があった際に再度車の方へ…となってしまう。そのため、自分の好みの車の近くでお話しする場所があり、お客様は自由に座って車を眺めながらくつろぐこともできるようにしました。そこには必ずモニターがあり、映像が流れているのですが、例えばラグジュアリー・セグメントの車が展示されているエリアでは、そのシリーズの映像を流すなど、エリアによって映像が変わるようになっています。
また、スタッフがタブレットで情報をモニターにお出しすることもできるので、部分的なカスタマイズをモニターに表示してお客様にお見せしたり、街の中での見え方や、日中か夜か、といった時間や場所による見え方も確認したりできます。Web上でも同じ情報を見ることはできますが、スタッフを介することで、お客様が分からない部分や、この車のこの組み合わせが人気ですなど、よりお客様のニーズに合った車のご提案が可能です。
車両の近くに設置されたコンサルティング・スペースの様子
環境問題と真摯に向き合うメーカーと協力して実現
― コンセプト内にある「サステナビリティ」の取り組みとして、環境素材・リサイクル素材をショールームに多く取り入れていますが、導入の目的や背景をお聞かせください。
BMWでは商品をつくる過程やその環境においてサステナビリティに真剣に取り組んでいます。自社が所有する施設に関しても再生エネルギーの割合を増やすなど、さまざまな取り組みを行っています。そのような中で、新しいショールーム・コンセプトが導入されました。BMWがもつプロダクトに対しての精神や、地球環境や地域の環境に対する責任はもちろん意識していますが、日本でお店を出す以上、視点を日本というところに落としてこなくてはいけない、という想いがありました。
もう一つは、ディーラー様が投資をする際の視点もとても重要です。現状の店舗でも十分きれいに運用がされており、お客様を快適な空間でお迎えはできています。新しいコンセプトで素敵な家具やインテリアになります、というだけではなくて、経済活動における資金の使い方にもポリシーを持っていたいなと。環境に配慮した行動であることが、ディーラー様の企業にとってプラスになりますし、我々のブランドとしては当たり前にしていかなくてはいけない、という意識があるので、その両方について考える必要がありました。
そういった背景から、店舗の素材を選ぶタイミングで「環境素材・リサイクル素材」を使うことは私たちの中でこだわるべきポイントだと決めて選定していきました。
まずオリバーの西葛西オフィス(東京)に候補になる素材をすべて集めて検証をはじめたのですが、環境素材の中から商業施設で必要なクオリティーを追求しつつ、どこで製造され輸入されたのか、CO₂排出量はどのくらいなのか、など様々な視点から選定していくことが大変でした。微妙な色味の違いも譲れないので、青ではあるけどこの素材の色は違うね、といって弾かなくていけないものもあって、本当に凄い量を調べましたね。
当時の様子を振り返る 左:今城さん 右:オリバーのデザイナー古畑さん
― 環境と商業施設のクオリティーを両立することの難しさを実感されたのですね。選ばれた中で、特にこだわった素材はありますか?
環境素材の選定において、コストとクオリティーのバランスはとても重要でした。ただお金をかければいいというものでもないですし、コンセプトが良くても耐久性がなかったら元も子もない。その中で、家具の張地として採用したのが、植物を原料にした“アップル・レザー”と“サボテン・レザー”です。オリバーさんの製品をカスタマイズさせていただくことで、メンテナンス含めて不具合などがあったとしても、いち早く動いていただける環境があるという中では、私達もチャレンジしやすかったですし、そこは本当に思いに寄り添って一緒にチャレンジしてもらえた。私達が感謝しているのはその部分ですね。
背面にアップル・レザーを張ったラウンジチェア
サボテン・レザーを張ったラウンジチェア
入口の壁面に、コーヒーショップで使用済みのコーヒー豆などを使用した壁面材を使用しています。この壁面材は、1枚として同じものがなく、塗装による着色がされていない、素材の色をそのまま生かした製品です。均一な外観の製品をつくることが一般的な中で、メーカーさんは、個体差があるものを原料にしているから色ムラが出てよいとしています。それが私たちの店舗のカラートーンにも合っていたので、いいね!となった素材です。
ムラや風合いが印象的な、使用済みのコーヒー豆などを再利用した壁面材
壁面には、その他にも食品工場から大量に廃棄される卵の殻を原料に作られたペイント材を使用しています。お金を払って捨てられていたものから製品が作れちゃうって感動ですよね!私たちは一日にして実現できない、だけどそこに真摯に向き合って労力と時間をかけて開発をしてくださったメーカーさんがいる。私たちも自社製品に対しては労力や想いをかけることができますが、同じように素材に対して取り組まれているメーカーに賛同したいという想いがあって、是非採用させてください、というところからスタートしました。流通すればコストなど、みんなが使いやすいものになっていき、よいループが生まれるなと。
海洋ゴミを再利用してつくられたカーテンやラグも使用しています。日本は島国だからこそ、海は大切にしたいと思っています。
オリバーさんがFSC®認証材の家具に積極的に取り組んでいたことも協業させていただいたポイントになっています。
海洋ゴミを再利用してつくられたカーテンを説明する、今城さん
BMWのものづくりの精神を体現したショールーム
― 素材一つひとつにまでこだわり、サステナブルショールームを体現されていることを伺いましたが、ショールームを訪れた方々に「サステナビリティ」を感じていただくための、具体的な仕掛けなどはされていますか?
店内にPOPを貼るなどはしていないです。ただ、改装した店舗には、スタッフの方も理解できるように商材の紹介はしています。あくまでもこのショールームの主役は、お客様であり、そのお客様に一番感じてもらいたいのはBMW製品の魅力。 車との出会いの場なので、車両が主役として目線に入って欲しいからです。スタッフがお客様とお話する際に、何かきっかけがあれば話していただければ思います。環境商材のショールームを作りたいわけではなくて、BMWの精神のもと、ショールームを作ったらこうなった、という感じです。ものづくりで当たり前にやってきたスタンスの事をショールームに落とすことができたという認識です。だから、BMWのショールームなんです。
ものづくりの精神とショールームについて語る、今城さん
スタッフへ意識の浸透、日本国内の素材や産業を応援していきたい
― 今後の展望などがあれば、お聞かせください。
昨年、全国の約280拠点の店舗で「エコマーク」を取得しました。国内では認知度の高いエコマークを取得したという事は、スタッフに対して、ブランドとして何をしたくて何に取り組んでほしいかということが伝わったと思うし、今後は、廃棄のところまで考えて企業さんと協業でできたら、また一歩進めると思います。
もう一つは、国内の材料や産業で作られたものを活用していきたいと思っています。例えば、この家具は旭川でとれた木で作られた家具です。この家具の脚や店舗のサインで使っている素材は、大仏を鋳造するときに使う釜で作られた真鍮を使っています。
日本伝統の技術や素材を、何か違うもので活用し、日本が元々持っていた産業を失わないようにすることも、私達とそのお客様の中には、その産業に関わってらっしゃる方もいらっしゃるので、応援していきたいです。
様々な環境素材やリサイクル素材から成り立っているショールーム
※2024年4月時点の内容です。