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食堂からコモンスペースへ。大成建設「ROCKai」が示す、これからのワークプレイス

2025.09.24
「人がいきいきとする環境を創造する」を理念に掲げる、大成建設株式会社様。本社6階の旧社員食堂を全面改修し、2025年1月に全従業員が利用できるコモンスペース「ROCKai(ロッカイ)」を完成させました。約1,630平方メートルの空間は機能を限定しない「ニュートラルコモン」という発想に基づき、全従業員の共有スペースとして設計されています。
ROCKaiの空間は6つのアクティビティゾーンとVIPエリアで構成され、心理学的効果を建築空間に落とし込んだ「ナッジデザイン」を採用。さらに、小菅村産の間伐材を端材まで活用するなど、徹底した環境配慮も特徴です。この取り組みは、2025年度第38回日経ニューオフィス賞(ニューオフィス推進賞)受賞という形で評価されました。
従業員エンゲージメント向上を目指したROCKaiとは―。設計を担当された設計本部の姉崎さんに、誕生の背景や設計思想、完成後の社内の変化を伺いました。

(写真:今田耕太郞)

食堂からコモンスペースへ。社員の声から生まれた「ROCKai(ロッカイ)」

(写真:今田耕太郞)

― 今回完成した「ROCKai」プロジェクトの概要についてお聞かせください。

ROCKaiは、本社6階にある旧社員食堂を改修し、従業員誰もが自由に使えるコモンスペースとして生まれ変わったプロジェクトです。設計にあたっては、「誰でも・いつでも・どんな目的でも使える空間とは何か?」を問い直しながら、すべての従業員が活用できる会社全体の共有空間として計画しました。

取り組みの背景には、当社が取り組んでいる従業員エンゲージメント向上があります。風土改革・働き方改革の一環として社員一人ひとりが自律的に働ける環境づくりを進める中、時間や場所にとらわれず、気分や業務内容に応じて使い分けられる「選択肢のある空間」が必要だと考えたんです。

あるときは共創空間に、あるときは個人の居場所に、またあるときは食堂に。用途を限定せず、従業員自身がその時々の状況や気分に合わせてどう使うかを決められる。そんな「余白のある空間=ニュートラルコモン」を目指しました。

ROCKaiプロジェクトの背景を語る、姉崎さん

ROCKaiプロジェクトの背景を語る、姉崎さん

― 改修前の6階は、どのように使われていたのですか?

昔ながらの社員食堂で昼と夜の食事時間しか利用できず、利用者層は限定的で、多くの従業員は短時間で食事を済ませる場所でした。ただ、「6階に行こうか」といった言葉は従業員の間で親しまれていて。そこでROCKaiを作るにあたり、まずは本社の全従業員へのアンケートから始めて要望を抽出しました。

― 実際、従業員からはどのような声がありましたか?

特に多かったのは「食事時間以外も使えるようにしてほしい」という声です。私たちも打ち合わせや個人作業などに活用できるワークプレイスの機能も持たせたいと考えていたので、従業員のニーズと思いが一致していることを実感しました。また、当社の文化ならではの特徴として「一人席がほしい」という声も多かったですね。

私が驚いたのは、部署ごとの働き方や捉え方の感覚の違いです。例えば、自席で作業が基本の部署では「地下のコンビニに行くことですら、サボっていると思われかねない」と感じている人もいれば、会議や移動が多い部署では「自由に動くのが当たり前」という部署もある。部署による文化の違いを受け止められる、誰にとっても居場所になる空間の必要性を強く感じました。

このような声を反映して、ROCKaiには一人席に加えて軽食や飲み物を買える無人コンビニのようなミニマーケットも導入しています。

― 名称の「ROCKai」には、どのような意味が込められているのですか?

名称は公募し、全従業員に参加してもらいながら決めることでこの場に愛着を持ってもらえるよう目指しました。最終的には、従業員の間で使われていた「6階に行こう」という親しみある言葉がそのままネーミングになりました。ROCKは英語のスラングで「すごい・素晴らしい」といったポジティブな意味もあるんです。

ROCKaiは本社の従業員だけが使う場所ではなく、全国の支店から来る従業員のスペースでもあります。今までは打ち合わせのため本社に早く着いても、1階のエントランスか近くのカフェで待つしかなかった。でも、今は、ROCKaiで一息つけるし、時間があればパソコン作業もできる。すべての従業員に開かれたコモンスペースだからこそ、空間としての誇りや、自慢できる場所になればという想いを込めています。

ROCKaiのサイン。6階で6つのエリアから構成されているため、6の文字も6分割

ROCKaiのサイン。6階で6つのエリアから構成されているため、6の文字も6分割

心理学効果を活かした、6+1のニュートラルコモン

― ROCKaiは、「6+1」のゾーニングで構成されているのですね。その設計意図を教えてください。

従業員の行動や感覚に沿った選べる空間を目指してアクティビティから設計しました。空間は「GROUP WORK」「SOLO WORK」「EVENT」「PAIR QUICK」「LOUNGE」「MEETING」の6エリアとVIPエリアに分かれており、それぞれのエリアに明確な個性を持たせています。社員食堂のような単一的な使い方から脱却し、状況や気分に応じて自然に場所を選べるように設計しました。

LOUNGEエリア。コーヒーを飲みながら1人でくつろぐ人もいれば、話に花を咲かせている人も

LOUNGEエリア。コーヒーを飲みながら1人でくつろぐ人もいれば、話に花を咲かせている人も
(写真:今田耕太郞)

MEETINGエリア。ランチタイム後はガラス戸を閉め、オープンスペースから会議室に

MEETINGエリア。ランチタイム後はガラス戸を閉め、オープンスペースから会議室に
(写真:今田耕太郞)

― そうした選択を促す仕掛けとして「ナッジデザイン」を取り入れているのですね?

はい。ナッジデザインとは心理学的効果と建築空間を紐づけた設計で、利用者にしてほしい行動を自然に促す手法。ROCKaiプロジェクトを通じて体系化した当社独自の概念です。

例えば、GROUP WORKのテーブルは奥行き1300mm。横並びで座るとコミュニケーションが取りやすいという心理効果を活用し、自然に横並びになる設計です。また、SOLO WORKでは集中力や作業効率を向上させたいという狙いから、天井を低く設計したカテドラル効果を取り入れています。

GROUP WORKのテーブルは対面に座ると距離感がある。自然と横並びになるため、会話がしやすい

GROUP WORKのテーブルは対面に座ると距離感がある。自然と横並びになるため、会話がしやすい

SOLO WORKエリアの窓際はカテドラル効果を採用。PC作業や読書をしている社員も

SOLO WORKエリアの窓際はカテドラル効果を採用。PC作業や読書をしている社員も
(写真:今田耕太郞)

― エリアごとに特徴がある中で、全体に統一感をもたせる工夫はありますか?

1エリアの床・壁・天井の素材を決める際は、1エリアだけでなく、常に6つのエリアすべてのサンプルを並べて色や素材のバランスを調整しました。そうすることで、他エリアとの連なりを生み出しています。また、什器のスケールや座面とテーブルの高さの差などにルールをつくって、コントロールすることも意識しました。

空間・什器ともに、自然素材や再生素材を採用して“自然の揺らぎ”を感じられる風合いを追求しました。再生材や自然素材を使うことで、マットな質感や自然のムラも空間の一部として馴染ませています。また、椅子の木材の色が固定されているため、それを起点に他の素材やカラーも選定して。コントロールできる部分を細かく調整したことで、空間全体の一体感を生み出しました。

MEETINGエリアと、LOUNGEエリアの境。流れるように空間が変わり、異なるエリアでもつながりを感じられる

MEETINGエリアと、LOUNGEエリアの境。流れるように空間が変わり、異なるエリアでもつながりを感じられる
(写真:今田耕太郞)

― 建築設計としての観点では、どのような点にこだわりましたか?

敷地に対してのアプローチはその一つで、周辺環境の取り込み方や高層ビルのワンフロアの立ち位置をふまえ、多角的な視点で計画したことです。本社がある新宿センタービルは高層ビル群の中にあり、外周はすべて窓。方位によって光の入り方や景色が全然違います。

南側のSOLO WORKは自然光がたっぷり入るので柱にパールが入った塗装を施し、光が当たった時に表情が生まれるようにしました。窓際席・ソファ席・ハイカウンターもすべて窓に向くよう設計して、自然環境を享受できる景色との一体感も意識しています。また、都庁側に位置するPAIR QUICKは中央公園に続く緑があり、晴れた日には富士山が見えるほど抜けがいい場所。そのため、窓際を暗色にして眺望を際立たせるよう工夫しました。

PAIR QUICKエリアの窓際はダークグレーに。テーブルとチェアも主張しないカラーに合わせている

PAIR QUICKエリアの窓際はダークグレーに。テーブルとチェアも主張しないカラーに合わせている

北側のLOUNGEエリアには建材のエキスパンドメタルを天井材に採用。光をなめらかに取り込みつつ、より奥行きを感じさせる

北側のLOUNGEエリアには建材のエキスパンドメタルを天井材に採用。光をなめらかに取り込みつつ、より奥行きを感じさせる
(写真:今田耕太郞)

― 設計で難しかった点はありますか?

エレベーターホールとVIPルームのデザインは最後まで悩みました。エレベーターホールは来訪者にとっての“顔”であり、通路は機能の異なるエリアの“起点”です。最終的に、通路のエレベーター側に間接照明を施し、開放された通路を通して専有部と共用部を一体的に感じさせながら照度と色味をおさえたニュートラルな空間とすることで、6つのエリアの個性を際立たせました。

もともと壁に囲まれていたエレベーターホールが、今はワンフロアのつながりを感じられる。振り返ると、このつなぎ方こそがROCKaiの成功要因のひとつかもしれません。

エレベーターホールから見たGROUP WORKエリア。まるで空間が浮かんでいるかのように見える

エレベーターホールから見たGROUP WORKエリア。まるで空間が浮かんでいるかのように見える
(写真:今田耕太郞)

「環境の大成」を体現。端材まで活かす精緻な造作家具と空間づくり

― ROCKaiの空間において、家具はどのような役割を担うと考えますか?

6つに分かれた全く設えの異なるエリアの調和を図るとともに、それぞれのエリアの特徴を際立たせる存在です。そして、チェア以外はすべて造作什器で制作しています。家具の納まりや資源循環、素材の選定など建築的な思想を取り入れながら、造作什器でしか体験できない空間を目指しました。

PAIR QUICKエリアの窓際のテーブルは、図面を広げられるほどの奥行きがある

PAIR QUICKエリアの窓際のテーブルは、図面を広げられるほどの奥行きがある
(写真:今田耕太郞)

― そのような中で、家具の造作・納入のパートナーとして当社を選んでいただいた理由をお聞かせください。

お世話になっている住宅作家さんから、「造作家具が際立って強いメーカーがある」とご紹介いただいたのがきっかけです。実際にご相談していく中で、オリバーさんの対応が本当に前向きで丁寧だと感じました。

例えば、大判仕様のGROUP WORKのテーブル。当初は一体構造でしたが、将来的なレイアウトの変更を考慮して分割できるようにしなければいけなくなりました。ただ、分割にすると構造上の強度が保てず倒れる懸念がありました。ひとつながりだからこそ、デザインと機能が保たれていたんです。そのような中、オリバーさんは「できません」ではなく、「ここまでだったらできる」「こうしたらいける」と前向きに提案してくださった。結果、分割できてデザインも妥協しないテーブルが実現しました。

また、GROUP WORKにある収納扉も印象的でした。一見フラットな壁に見えるよう設計されていますが、実際は折れ戸と開き戸を組み合わせています。この一体化された見え方を実現するために、開き方の違いも含めてオリバーさんは金物から提案してくださって。建築設計者に不足しがちな家具金物の知識を、オリバーさんはしっかり補ってくださいました。

ROCKaiのチェアは、すべてオリバーさんの提案によるものですね。私たちの空間イメージを共有し、それに合った選択肢をいくつか出していただきました。特にこだわったのは背面デザイン。チェアは正面より背面が見える時間が長いため、そこが美しくあることは非常に重要です。カタログだけでは分からない見た目や機能面もふまえた提案には、専門メーカーならではの視点が活きていると感じます。

MEETINGエリアの左側のチェアは納まりを重視。右側はガラス戸で仕切ると会議室になるため、キャスター付のチェアに

MEETINGエリアの左側のチェアは納まりを重視。右側はガラス戸で仕切ると会議室になるため、キャスター付のチェアに
(写真:今田耕太郞)

― 造作什器には、一部に小菅村産の間伐材を使用されたそうですね。

当社は2024年4月から小菅村と協定を結び、グリーンインフラ整備を推進しています。「環境の大成」を具現化する初のプロジェクトとして、ROCKaiの家具に間伐材を使用することを決めました。

実際に、オリバーさんの製材所に足を運んで間伐材を一本ずつ確認しました。木材は生ものなので、木目・節の量・色も一本一本違います。特に杉は色味が多く、黒や白、赤まである。現物を見ながら、黒い木材は外したり、赤と白が混ざったものは見えるようにしたり。天板に使う木材の節の割合まで細やかな調整を加えました。

また、PAIR QUICKにあるハイテーブル側面の凹凸の長さもミリ単位でご相談しました。普通なら木材をスパッと切るだけで済むところを、一つひとつ見比べながら組み立てる。そのような細かい要望にまで「無理です」とは言わずに応えてくださいました。

PAIR QUICKのハイテーブル。ヌードル系の食事を立って食べる社員が多い

PAIR QUICKのハイテーブル。ヌードル系の食事を立って食べる社員が多い

側面の凹凸により、まるで間伐材が息づいているように見える

側面の凹凸により、まるで間伐材が息づいているように見える

― 最後まで決まらなかったとおっしゃったVIPルームのデザインにも、間伐材が使われているんですね。

VIPルームのデザインには、6エリアから出た端材や流通材の端材を使用しています。実は端材や流通材を使うことについては、最終図面チェックの段階で決めました。当初の設計でも完成しますが、「環境の大成」を体現しているメッセージ性を高めるために端材で作りたいと考え、明日までに決めないと間に合わない、という状況でオリバーさんに相談して対応していただきました。

VIPルームは茶室の設えを現代的に解釈し、日常空間から切り離された“もてなしの場”をイメージしています。重厚な扉を開けて進むと、空間の輪郭が徐々に浮かび上がり、最後に一段上がると日常から切り離された感覚が得られる設計にしました。光が射す時間帯によって表情を変え、光の移ろいとともに静けさと余白も感じられる。「本当に同じビルの中なの?」と思ってもらえるような上質な空間に仕上げています。

VIPルームの扉を開けると水音が響き、光が揺らぐ。五感を通して記憶に残る空間に

VIPルームの扉を開けると水音が響き、光が揺らぐ。五感を通して記憶に残る空間に

6エリアから出た端材は、秀逸な空間の一端をなしている

6エリアから出た端材は、秀逸な空間の一端をなしている

空間が人をつなげ、企業文化も変えていく。ROCKaiが生んだ社内の変化

― ROCKaiの完成後、社内でどのような変化が見られましたか?

以前は限られた層の利用が中心でしたが、今では幅広い世代・性別の従業員がROCKaiを積極的に利用しています。完成直後、他部署の方々から「今までの会社じゃないみたい!」など評判の声が聞こえるたびに、心の中でガッツポーズしています(笑)。

また、各部署のイベント活用も活発です。歓迎会・講演会・研修など、さまざまな用途で使われています。他部署の活動が自然と見える化されたことで、「あの部署はこういう研修をしているのか」と互いの取り組みを知る機会にもなりました。これまで部署内で完結していた活動が、空間を通じて緩やかにつながりはじめた印象です。個人的には、「大成建設にはこんなに多様な人材がいたのか」という発見もありましたね。

EVENTエリアのテーブルは、組み合わせると1つの大きなテーブルとして使える

EVENTエリアのテーブルは、組み合わせると1つの大きなテーブルとして使える
(写真:今田耕太郞)

― ROCKaiにより、企業風土にも変化をもたらしているのですね。

当社は風土改革にも力を入れており、服装も自由になってきています。ROCKaiではラフな服装とスーツの方が自然に会話していて、その光景が明るい雰囲気を生み出していて。「大成、変わったな」と思う瞬間です。

15時頃のLOUNGEとMEETINGの様子

15時頃のLOUNGEとMEETINGの様子

― 今後、ROCKaiはどのような場所になっていくと期待していますか?

社内の変化だけでなく、社外への影響も大きいと感じています。同業他社やお客様が来社された際は積極的にROCKaiをご案内し、実際にここで打ち合わせすることも増えました。特に、ナッジデザインは建築設計では当たり前の感覚ですが、お客様には伝わりにくい。でも、空間を体験していただきながら説明すると理解を深めていただける。私たちの設計思想を伝えるツールにもなっています。

大成建設のグループ理念は「ひとがいきいきとする環境を創造する」。まず従業員がいきいきと働ける環境の実現が、ROCKaiです。会社の風土改革を推進し、大成建設の新しい顔としてあり続ける場所になってほしいと願っています。

大成建設株式会社 設計本部 建築設計第二部 アーキテクト 姉崎 匠様

大成建設株式会社 設計本部 建築設計第二部 アーキテクト 姉崎 匠様

※2025年9月時点の内容です。