社員が幸せでなければ、お客様を幸せにできない。
秋田のカーディーラーがバックヤード改革に本気で向き合う理由

12年前に感じた「古さ」から始まった、働く環境への問い
― 石黒社長が秋田スズキに入社された2013年、当時、会社にどのような印象を持たれましたか。
正直に言うと、外観・使用しているイスやテーブル・社風も含めて「古いな」と思いました。私はスズキ株式会社や、同社直営の大阪や神奈川の店舗で営業や経営のノウハウを学んだ後、2013年に秋田スズキへ入社した背景もあり、第一印象は「一昔前の会社」という印象でした。
例えば、当時はお手洗いが男女共用で、社員とお客様も共用だったんです。ただ、ずっとその環境にいる社員にとってはそれが普通でした。不便は感じていても、「まあ、しょうがない」と。
とはいえ、悪い会社ではありません。社員同士は和気あいあいとして、楽しそうに働いていました。「辛抱強い」「長く大事にものを使う」という文化がある一方で、変化を起こせば会社はもっと良くなるのではないか。そこにヒントがあると感じた出発点でした。
12年前の働く環境や社風について語る、石黒社長
― そこから、店舗のリニューアルに着手されたのですね。
そうです。まずは4輪の事業所から、お手洗いを一新したりショールームに彩りのある家具を導入したりと、少しずつ整えていきました。その結果、お客様から「きれいになったね」「居心地がいいね」という声をいただき、満足度は確かに上がりました。ただ、社員の満足度向上には直接つながらなかったんです。
この経験を通じて気づいたのは、「社員が楽しく気分よく働くことが大事」ということでした。お客様の目に触れる場所だけをきれいにしても、働いている人たちの気持ちが上がらなければ本当の意味での満足度向上にはつながらない。それ以来、「社員が会社に来たくなるような、楽しく働ける店舗をつくること」を追求してきました。今回のカー秋田のリニューアルは、その最新作です。
ショールームは秋田県の伝統工芸品「曲げわっぱ」をイメージ。温かみのある木目や暖色のカラーリングで統一した
― バックヤードを一新する前は、具体的にどのような課題があったのですか。
現場から聞いていたのは、「社員がちゃんと休める場所がなかった」ということです。以前のカー秋田は事務所がとても狭く、営業や事務員は自分のデスクでご飯を食べ、整備スタッフは自分の車の中で休憩するような状態でした。しかも、電話が鳴れば対応し、目の前に仕事があれば手を止められない。休憩時間でも気持ちの切り替えがしにくく、本当の意味での「休憩」ではなかったんです。
そのため、今回のプロジェクトにおいて現場責任者は「ちゃんと休める場所をつくるためにチャレンジしたい」という強い意思がありました。
― オフィス環境はいかがでしたか?
従来の事務所は、決まった席で決まった人が決まった話をしている状態でした。偶発的な会話が生まれず、「成長のスピードが遅いのではないか」「もしかすると止まっているのではないか」という危機感がありました。それは現場も、私自身も、同じことを感じていましたね。
6年前の挫折と、今回の成功を分けたもの
― カー秋田ではフリーアドレスを導入されていますが、以前から構想はあったのでしょうか。
実は6年前、本社をリニューアルする際にフリーアドレスを提案したんです。当時、私は専務でリニューアルのプロジェクトリーダーを務めていました。自由度の高いオフィス環境にすれば風通しよく働けて気分も上がると思いましたが、社員に伝えたら大反対。「使いにくそう」「書類はどうすれば?」など、自分の席がなくなることへの不安が大きかったですね。
ただ、そのような声がある中で私が押し通せば、社員のモチベーションは下がると思いました。満足度を上げるための改革が、逆効果になってしまう。一旦は引きましたが、諦めてはいませんでした。
― 6年越しの構想が、今回実現したのですね。社員へのアプローチを変えたのですか?
はい。きっかけは昨年、仙台で開催されたオリバーさんの展示会でした。そこでオリバーさんを知り、その後、今回のリニューアルにあたり今年の8月に、店舗責任者と工場責任者、私の3名でオリバーさんの日本橋オフィスを見学させていただいたんです。
見学前、責任者たちは「ショールームの家具は温かみのあるものを、オフィスはきれいなデスクを選ぼう」という考えで、フリーアドレスに乗り気ではありませんでした。
― そして、実際に見学して変化があったんですね。
360度変わりましたね。「フリーアドレス、やってみたいです」と言ってくれて。家具一つひとつはもちろん、楽しそうに働いているオリバーの社員さんの姿を見て衝撃を受けたようでした。「こういうオフィスで働きたい」「こんな会社に行きたい」と。
その日から、私は一切口を出していません。「好きにしていいよ」と伝えて、コンセプトから任せました。
オフィスのメインデスクは、蛇の曲線を彷彿させるような有機的で動きのあるデザインを採用
(写真左側)各自に移動式の収納台やロッカーを割り振り、オフィス内で荷物を自由に持ち運べるように。(写真中央)個室ブースは1on1で使用する
― 全面的に社員に任せるのは、勇気のいる決断だと思います。
私自身が好きにさせてもらった経験があるからかもしれません。スズキには標準仕様があり、どこのディーラーも同じようなデザインになります。しかし、本社をリニューアルした際、当時の社長が「好きにしていい」と言ってくれた。それで私は、従来の仕様とはかけ離れたデザインやサイズで思い切りやらせてもらいました。その成功体験があったから、今度は私が社員に同じことを言えたのだと思いますね。
フリーアドレスに不安を抱くスタッフに対し、責任者は「自由度が高いオフィスなら全員で補いながら休憩が取れる」というポジティブな視点で説明したという
「本気には本気で応える」。予算を超えた決断とパートナー選び
― 責任者の方々に任せた後、プロジェクトはどのように進んだのでしょうか。
私は、相談を受けても「任せるから」とだけ返していました。責任者は、「中古車の拠点ではなく、秋田スズキのディーラーとしてお客様をもてなす空間にする」「楽しんで働ける自由度の高いバックヤードにする」という2つの軸で、オリバーさんとやり取りを重ねていたようです。
ただ、本プロジェクト中に一度だけ、責任者が社長室にひとりで来て「少しお話を聞いていただけますか」と言われたことがあって。それは印象深い出来事でしたね。
― どのようなことがあったのですか。
「家具の選定を進めていますが、予算はありますか」と聞かれたんです。「予算らしきものはあるよ」と答えたら、「私たちが一生懸命選び、考え抜いたプランを叶えていただけませんか」と。
彼は予算オーバーが分かった上で言いに来ているわけです。さらに現場スタッフにも「休憩をみんなで補いながら取れるようにするには、自由度のある事務所がいいと思う」と伝え続け、フリーアドレスに踏み切って進めている。彼の目を見て本気だと感じ、「叶えるよ」と答えました。
もし「予算オーバーだから、少し我慢して別のものにしてもらえないか」と私が言えば、彼のモチベーションはもちろん、一緒に家具を選定した社員たちの気持ちも下がってしまう。本気で来た人には、本気で応えなければいけないと思いました。
実際、後で見積もりを見た時には驚きましたよ(笑)。でも、責任者も本気、オリバーさんも本気で、できる限り最大限の努力をしてくださいました。みんなの思いが重なって、この空間ができたのだと思います。
休憩室では、ラウンド型に配置したテーブルでスタッフが談笑する姿も
「ゆっくり過ごしてもらいたい」という思いから、オットマン付きのおこもりブースを採用。贅沢な空間は、スタッフに一番人気
― 今回のプロジェクトで、オリバーをパートナーに選んでくださった決め手をお聞かせください。
何社かご提案をいただいた中で、私たちの思いを一番汲んでくれたのがオリバーさんでした。「こんな感じにしたい」と伝えると、すぐにパースで可視化してくださるので、完成形がイメージしやすかったんです。例えば、キッズコーナーでは、「親御さんからよく見える場所に配置したい」「安全性がほしい」「商談の妨げにならないように」と、さまざまな要望を出しました。それに対して「ではこういう形はいかがですか」と、必ずレスポンスをくださいました。
ショールームの空間に馴染む、キッズスペース
また、やはりオリバーの社員の皆さんが楽しそうに働いていたことも大きいですね。日本橋のオフィスを見学した際、製品について熱心に説明してくださったり、AIを使ったデモンストレーションを見せてくださったり。お客様の要望を最大限叶えようと本気で取り組んでいる方々なのだと感じました。
余談ですが、先述の仙台展示会の懇親会で司会をされている方がオリバーの大川社長だったんです。社長自らが楽しそうに場を盛り上げていらっしゃる姿に好感を持ちました。実は私もカー秋田が完成した際、社員向けのパーティーで司会を務めたのですが、どこか通じるものを感じて(笑)。トップが、楽しいことを率先してやる姿勢に共感しましたね。
「社員が本気で選んだ家具だから投資することを決めた」と、笑顔で語る
「信用は満足の反復に依ってのみ得られる」。秋田スズキが目指す循環
― 今回のプロジェクトを通じて、改めて感じたことはありますか。
社員に幸せを感じてもらうこと。それが私の仕事だと確信しました。創業者の言葉で社是でもある「信用第一。信用は満足の反復に依ってのみ得られる」は、本来はお客様への言葉です。ただ、私は社員に対しても同じことが言えると考えています。
社員が満足を繰り返せば、会社や経営者を信用してくれるようになります。「この会社でいいんだ」「この人と一緒に仕事をしたい」と思ってもらえれば、「会社をもっと良くしよう」という発想が自然と生まれる。そうなると、お客様にも喜んでいただきたいと考えるようになり、自分で考え、行動し、働きがいにもつながります。
弊社の理念の一行目に「お客様に喜んでいただくこと」とあり、それが実現できるのは社員だけ。今回のプロジェクトは、社員への信用を積み重ねるための大きな一歩だと感じています。
解放感があり、まるで陽だまりの中にいるかのようなショールーム
― カーディーラーにとって、インテリアにはどのような力があるとお考えですか。
インテリアは会社の考え方を表すものだと思います。お客様への心遣いや気遣いの表れでもある。「こういうふうに過ごしていただきたい」という私たちの思いを形にしてくれるのが、空間やインテリアです。
特に地方では、私たちの仕事の価値はより大きくなります。秋田県は車が一人一台必要な地域ですから、自動車販売店は誰もが必ず訪れる場所です。車検や点検は義務付けられていますので、人によっては病院よりも足を運ぶ回数は多いのではないでしょうか。だからこそ、空間を通じて「秋田スズキに来てよかった」と感じていただきたい。インテリアには、私たちの想いを伝える力があると考えています。
おもてなしの姿勢は、ショールームの家具の質感・見た目・使い勝手のよさなど細部にわたる
― 今後の展望についてお聞かせください。
社員が「この会社に入社してよかった」と思える機会を増やしたいと考えています。私が大切にしているのは、互いに興味関心を寄せ合うことです。秋田の土地柄もあり、仕事に線引きが生まれやすい側面もあります。その壁を薄くするために幹部が率先して部下に関心を寄せ、困っていたらどこまでも助ける。それを今、実践している段階です。
その積み重ねは安心感を生み、やがて信用に変わっていく。「この会社いいな」と思ってくれた社員が、今度は自分の部下に同じことをしてくれるようになる。時間はかかりますが、そういう循環を作っていきたいです。
そのような点から、カー秋田のリニューアルも循環を生むための小さな芽です。他店舗の店長が興味を持ってくれたら、「まずはカー秋田の責任者の話を聞いてみなさい」と伝え、リニューアルしたい思いが生まれたら同じように背中を押します。
社員が幸せを感じながら働いていれば、そこにお客様が集まってくる。その結果として業績も上がっていく。まだスタートラインではありますが、それが私の信じるサイクルです。
株式会社秋田スズキ 代表取締役社長 石黒 佐太朗様
※2026年2月時点の内容です。