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境界をなくし、街を創る。
「STATION Ai」が体現するオープンイノベーション空間

2026.03.19
名古屋市・鶴舞に誕生した日本最大級のオープンイノベーション拠点「STATION Ai」。延べ床面積2万3,000平方メートルの複合施設は、スタートアップ企業の成長段階に応じて柔軟に活用できる場として、2024年10月に運用を開始しました。2025年度 第38回日経ニューオフィス賞 サード・ワークプレイス推進賞を受賞し、新しい働き方を体現する空間としても注目を集めています。
核となるコンセプトは「Autonomous City(自律的に進化する街) in STATION Ai」。スロープで1階から7階までのフロアをシームレスにつなぎ、壁による境界をなくし、虹の7色で空間を彩る。従来のオフィスビルとは一線を画し、利用者の創造を促す仕掛けが散りばめられています。このユニークな空間はどのようにして生まれたのか。
STATION Ai エリア企画運用部 部長の大澤樹生さんとデザイン監修の名古屋工業大学 准教授の伊藤孝紀さんに、イノベーションを生む場づくりの思想を伺いました。

「Do more crossovers」を空間に。STATION Ai誕生の背景

― STATION Aiとは、どのような施設を構想されて生まれたのか、きっかけをお聞かせください。

大澤さん:STATION Aiは、オフィススペース・イベントホール・コワーキングスペース・宿泊施設も備えた複合施設です。単なる場所の提供ではなく、スタートアップ企業の成長段階に応じて柔軟に活用でき、企業間の交流やオープンイノベーションが自然に生まれる空間を目指しました。

きっかけは、2018年10月に愛知県が進めていた「Aichi-Startup戦略」です。スタートアップ企業が集まり、戦略を実践する物理的な拠点が必要ということで、2021年に愛知県が公募を実施し、ソフトバンクとして手を挙げました。

その際、私たちは「Do more crossovers」といって、多様な人々やアイデアが交差し、新たなイノベーションを生み出すというタグラインのもとで進めていました。ただ、このメッセージを空間としてどう表現するか。これが私たちの課題でした。

STATION Aiが誕生した背景を語る、大澤さん

STATION Aiが誕生した背景を語る、大澤さん

伊藤さん:実は、私への最初の相談は、別の角度からでした。当時、愛知県は「Aichi-Startup戦略」と並行して、鶴舞から栄を通って名古屋駅まで自動運転を走らせる構想を持っていたんです。私がまちづくりに携わっている地域を通るルートだったため、「街と自動運転の関係性をデザインしてほしい」という相談が県からあったんです。

大澤さん:自動運転プロジェクトのつながりで「伊藤教授という面白い先生がいるよ」と知り、これは相談するしかないと。設計図は完成していましたが、伊藤先生からアイデアや知恵をいただきました。

伊藤さん:大澤さんから相談を受けた時、「街を建物の中で表現する」という発想でデザインをリビルドしました。「Do more crossovers」のタグラインに、ブランドストーリーとして命を吹き込めないかと考えたんです。そこで着目したのが、STATION Aiのアルファベットです。AとIの間には、7文字ある。これを7つの色、つまり虹色に置き換えたらどうだろうと。

スタートアップして成功していくと、ユニコーン企業と言われます。この愛知・名古屋市から虹をかけて世界に羽ばたいていく。そういうストーリーを描くなら、「STATION Aiという名前の中には、そもそも虹色が介在しているんだ」って。そんな物語を空間に込めようと考えました。

STATION Aiの構想を語る、伊藤さん

STATION Aiの構想を語る、伊藤さん

"箱"ではなく"街"をつくる。空間デザインの仕掛け

― コンセプト「Autonomous City(自律的に進化する街) in STATION Ai」には、どのような想いと仕掛けが込められているのですか?

伊藤さん:「Autonomous City」は、可変して成長・進化し続ける街をイメージしています。街って、歩いていて楽しいじゃないですか。会話が生まれ、コミュニティができ、出会いがある。一方で、施設はハコモノのイメージが強い。壁で仕切られ、用途がしっかり分かれていますよね。それはスタートアップする環境として適していないと思ったんです。

スタートアップする人たちが街の中で刺激を受けながら挑戦する。そんな雰囲気を作るために、境界線をなくすことを重視しました。入り口から入ると、フードコート、ホールと続き、スロープを回りながら進むと「アート?」「美術館?」と感じる。スロープの先にはオフィスのような空間があるのに、「博物館?」「ホテル?」と驚きがある。利用者が使いながら彩っていくイメージで空間構成を考えました。

エントランスから入ると、ホールとフードコートをつなぐ空間は明るいカラーの家具が目に入る

エントランスから入ると、ホールとフードコートをつなぐ空間は明るいカラーの家具が目に入る

回遊するスロープ。子どもやベビーカーを押す人も見られ、地域に開かれている

回遊するスロープ。子どもやベビーカーを押す人も見られ、地域に開かれている

そのために、ゾーニングはあえてしていません。建築の観点から言うと、一般的にはゾーニングして、その中に機能を置き、壁と床と天井を揃えていくんですね。しかし、 STATION Aiではそういう発想をまずなくしました。壁と床と天井も一致してないし、什器も自由度があるものを選定して、利用者がある程度手を加えたり変えたりできるようにしたんです。

大澤さん:ゾーニングしないことで境界線をなくしたんですね。建築と内装デザインの考え方がクロスしているのもユニークな点です。一般的なオフィスは壁に面を統一しますが、あえて壁から通路をつくって回遊性を持たせている。これはSTATION Aiの象徴ですよね。

伊藤さん:そうですね。イベントをやるときはイベントスペース、休憩やランチをしていれば休憩スペース、仕事をしていれば仕事スペース。その時々で対応できる有機的な空間をいくつか配置しました。

仕切りを設けず、色彩豊かなオフィスフロアが広がる

仕切りを設けず、色彩豊かなオフィスフロアが広がる

スロープと各フロアはガラス張りで、開放的に

スロープと各フロアはガラス張りで、開放的に

オフィスフロアには、個室ブースやソファ席も並ぶ

オフィスフロアには、個室ブースやソファ席も並ぶ

大澤さん:各階の階段スペースにも特徴があります。3階・4階・5階は同じものを置いておらず、使い勝手に合わせた配置をしています。オープンイノベーションにもいろんな形があるので、皆さんが可変的に使えるよう提案している形もポイントですね。

伊藤さん:階段スペースはすごく魅力的な空間なので、間仕切りや余計なものを取り除きました。通常、インテリアは「足していく」作業ですが、逆に「減らして」可変性を持たせる。1階からスロープで上がり、スキップフロアでずらしていく。これは、利用者の選択肢を増やし、行為を最大限に誘発したかったからです。

施設内をぐるぐると巡れることが大事なので、壁を外部空間にくっつけず屋内外をつなぎ、1階からシームレスに全空間をつなげるのに力を入れました。その要素として、アートも効果的ですよね。

階段スペースの使い方も、利用者の発想に委ねている

階段スペースの使い方も、利用者の発想に委ねている

大澤さん:そうなんです。クリエイティブな脳を作る場所にはアートは欠かせないので、スタートアップ企業として有名なヘラルボニーさんのアートを選びました。障害者の方の雇用機会を事業として成長させ、障害者の方々も生き生きと作品を作っている。利用者からは世界最大級のヘラルボニーの展示規模に「美術館みたい」というコメントをいただいていますよ。

スロープを回りながらアートを見ると、アーティスト独自の世界観やストーリーに触れられる

スロープを回りながらアートを見ると、アーティスト独自の世界観やストーリーに触れられる

アートが、「新しいビジネスストーリーを生む刺激になってもらえれば」という期待も込められている

アートが、「新しいビジネスストーリーを生む刺激になってもらえれば」という期待も込められている

オフィスフロアにある会議室内にもアートを配置し、空間と思考に刺激を与える要素に

オフィスフロアにある会議室内にもアートを配置し、空間と思考に刺激を与える要素に

伊藤さん:もう一つ重要な仕掛けは、空間の仕様を制限していない点です。例えば、「ガラスの透明度を何パーセントにしてください」といった決まりがあることが一般的ですが、それは創造性をなくすと思って。「コミュニケーションを取りやすいガラス面にしてください」「自社のPRもわかりやすくしてください」と、定性的にポジティブな投げかけだけしています。「これをこうしなさい」という定量的な規則や決まり事は一言も提示していません。

日本人は方程式を与えられて判断することに慣れていますが、この空間の意図を考えて、自分でどう活用するか考えてほしい。定性的かつ創造的なルールづくりは斬新だと思います。

大澤さん:実際に、利用者の皆さんは自由に使われていますよね。

伊藤さん:そうなんです。パチンコ台を置いている人もいれば、ロボットを置いている人もいる。オリバーさんの家具周辺にも境界はなく、皆さんクリエイティブな発想で空間と対話している感じが素敵ですね。

7色の世界観を形にする─オリバーとの協働

― STATION Aiのインテリアの構築にオリバーを選んでいただき、印象に残っている点をお聞かせください。

大澤さん:空間を7色で表現することが非常に大変でした。一般的には単色でゾーニングしますが、STATION Aiは違います。会議室一つを見ても、同じ型番で色がまったく違う椅子を選んで配置している。さらに色の種類が多いので、オリバーさんには根気強くお付き合いいただきました。

7色全てを使わなければならない制約の中で、特に難しかったのがピンクとオレンジです。女性スタッフからは「素敵!」という反応でしたが、役員会では「派手な空間じゃ真面目に仕事ができない」と言われたこともあり、初期の段階では相当議論がありました。

伊藤さん:でも、実際に空間に使用しているピンクやオレンジもかっこいいんですよ。これはカーテンからファブリック、家具までの色合わせをオリバーさんが徹底して、協力くださったからですね。その一体感によって、ピンクやオレンジも世界観がちゃんと表現できていると感じます。

同じ空間でも、ピンクの色を使い分けて配置

同じ空間でも、ピンクの色を使い分けて配置

さまざまな色が混同していても、一体感のある空間に

さまざまな色が混同していても、一体感のある空間に

施設から街へ。広がるオートノマスシティの思想

― 2025年度第38回 日経ニューオフィス賞のサード・ワークプレイス賞を受賞されました。この評価をどう受け止め、今後STATION Aiはどのような役割を果たしていくのでしょうか。

大澤さん:サード・ワークプレイス賞は今年新設された部門です。今まではオフィスや一棟まるごとの評価でしたが、「サードワークプレイス的に働けるオフィス」という点を評価いただきました。ビジネスパーソンも一般の方も活用できる、オープンイノベーション空間のモデルケースとして世にアピールできればと思います。

伊藤さん:私はオフィスの領域を超えた評価と捉えていています。STATION Aiは大澤部長を中心にエリアマネジメントを行い、鶴舞・千種エリアのまちづくりを牽引しています。イオンタウン・浩養園・名古屋工業大学などのエリア内の企業と大学が連携して、公共空間を活用しながら個性的でコミュニティが生まれる街をつくろうとしている。それはまさに、コンセプト「Autonomous City」と同じで、このエリア内でもSTATION Aiは「Autonomous City」の役割を担っている。そのような期待を込めた評価なのではないでしょうか。

実際、STATION Aiは鶴舞公園との一体感を大切にしています。テラスは鶴舞公園から歩いてきた延長でウォーカブルに進める仕掛けです。張り出したテラスの植栽が立体的な公園となり、一体感ある景観を生んでいます。

大澤さん:まさに、鶴舞駅から歩いてくると建物と公園がなじんでいる印象ですよね。

伊藤さん:さらに象徴的なのは、約100年前の名工大初代教授・鈴木禎次先生の存在もあります。鈴木先生は鶴舞公園の噴水塔・奏楽堂をデザインし、名古屋市公会堂をデザイン監修されており、STATION Aiはそれらとシンメトリーに向き合う配置となっています。100年の時代軸も感じてもらえると感慨深いです。

7階のルーフトップバーからはエリア周辺が一望できる

7階のルーフトップバーからはエリア周辺が一望できる

こうした背景をふまえると、施設をデザインするより街の中で施設がどう生きるかをデザインすることが大切だと思います。STATION Aiでスタートアップし、成長したら近くのお店や大学にオフィスを構え、さらに成長したら大きなオフィスへ。エリア内で段階的に成長できる仕組みができるといいですよね。

今まで建築家は箱をデザインしていましたが、これからは地域の特徴や歴史、人を活かすストーリーをデザインしていく。街までデザインできる建築家が増えれば、名古屋がもっとイノベーションの起点になると期待しています。

大澤さん:開業1年を迎えて、私たちはオープンイノベーションを日本だけでなくアジアや世界にも広げていきたいです。スタートアップ企業がSTATION Aiに来てワクワクする賑わいをつくって、多くの方が使い勝手よく働きやすいオフィスにしていきたい。これからまさにオートノマスシティとして進化発展したいと考えています。

(左から)STATION Ai エリア企画運用部 大澤樹生部長、デザイン監修 名古屋工業大学 伊藤孝紀准教授

(左から)STATION Ai エリア企画運用部 大澤樹生部長、デザイン監修 名古屋工業大学 伊藤孝紀准教授

※2026年3月時点の内容です。