グエナエル・ニコラ氏が語る「フォーシーズンズホテル大阪」の内装と、これからのインテリアデザイン
日本の伝統を感じさせる和のエッセンスとモダンラグジュアリーが融合する客室などが話題となっています。ホテルの内装を手掛けたデザインスタジオ キュリオシティのグエナエル・ニコラ氏に、この取り組みについて詳しくお話を伺いました。

オリジナルの家具から空間、建築につながる特別なホテル
― フォーシーズンズホテルのインテリアでコンセプトまたはこだわったものがありましたら、ぜひお聞かせください。

建物の外観
フォーシーズンズホテル大阪の建物のイメージは「船」です。
大阪はアジアから色々なものが集まるハブのイメージがありますが、とある人がアジアを回っていいものを見つけ、大阪に持って帰る。そういったイメージで空間をつくりたいと考えました。
例えば、建物の構造に珍しい石やブロックがあるとか、日本の繊細さとアジアの強い要素のバランスで空間をつくりたかった。
そして、とても大事なことですが、ホテルは家ではないです。ホテルにはサプライズが欲しいですよね。家にはないものを見つけたい。レストランも客室も特別で、素材や照明、本なども見たことがないものを見つけたい。だから家具もオリジナルのものを必ず作ります。ホテルにある家具が家と同じだったらちょっと寂しいですよね。トレンドがあっても、そのトレンドを超えて新しいものを作らないといけないのです。
― 家具までデザインされていると思いますが、インテリアを体現する家具について、どういう視点でデザインされたのでしょうか。

1Fテラスエリアに並ぶアウトドア家具
YURIはもともとアウトドアのコレクションで、非常にキャラクターの強い形状ですが、どのような空間にも似合います。
今回のホテルはアウトドアの要素もありますが、リゾート地ではありません。そのため、チークの自然な色合いは避けたいと考え、黒のテクスチャーを使用しました。
また、インテリアとエクステリアを同じ素材で構成していて、外と中を分けないことで、空間が広く感じるようになります。

屋外と屋内で同じ家具を使用
そして、YURIはミニマルな印象のコレクションですが、一つひとつの素材にも強いキャラクターがあります。張地も木も、触れた時はなんとなく温かさがあり、黒のテクスチャーも非常にマットな素材を使っています。
タイムレスな雰囲気で、昔あったものか新しいものかわからない。そのため、新しいホテルだけれども、なんとなく昔からあったように感じると思います。すべての空間と家具が組み合わさって雰囲気が出てきますね。
― 客室などで特にこだわったところを教えてください。

広さと特別感を感じるスイートルーム
客室デザインで一番大事なのは、空間が広く感じるように工夫するということと、空間に入る時に特別感を出すということです。
今回のホテルは、普通のホテルのレイアウトとは違い、なんとなく迷路のような形で、とても不思議なレイアウトになっています。新築であるからこういったレイアウトが実現できるのですが、設計段階でインテリアと建築がコラボレーションすることで、非常に面白い空間ができあがります。
普通はこの壁、この扉、といったようにすでに空間が決まっている中でインテリアデザインをすることが多いですが、今回の客室はそれとは雰囲気が違います。ロビーは建物に対して斜めで構築され、外と中でリンクするような空間ですから、面白い空間が出来上がったと思います。
コラボレーションによって新しいことに挑戦し、よりよいものを生み出す
― オリバーに依頼いただいた背景や、メーカーとして期待してくださったポイントなどをお聞かせください。

フォーシーズンズホテルのためにデザインしたオリジナル家具
オリバーさんとは以前からコラボレーションしていたということも、依頼したポイントの一つです。
わたしたちにはデザインのイメージはありますが、イメージを具現化するために話ができるパートナーは大事ですよね。細かい調整であったり、一つひとつの椅子に座るときに、どういう風に感じるかであったり。しっかりとチェックして、プロトタイプを何回も製作するというのは非常に大変だったと思います。
また、今回は絶対に日本でつくりたいという想いがありました。日本でつくることで、クオリティチェックもしやすく、開発の途中でも色々とやり取りができます。
オリバーさんも今までとは違ったつくり方や考え方を実行することで、Win-Winのコラボレーションができます。また、ホテル側にもメンテナンス、使い方など私たちとはまた違う視点があります。そのため、私たちが考えていないような依頼がくることもありますが、今回この3社(フォーシーズンズ・キュリオシティ・オリバー)のチームで色々とコラボレーションすることで、新しいことができたと思います。
トップからの変革がサステナビリティを加速させる
― サステナビリティへの配慮は、世の中で注目されているテーマだと思いますが、環境のみにかかわらず、今注目されているテーマをお聞かせください。

サステナビリティについて語るグエナエル・ニコラ氏
サステナビリティに配慮するということは当たり前なことで、ずっと大事にしてきたのですが、日本は遅れているように思います。そういった優先順位になっていないです。メーカーもクライアントも、優先事項になっていないということは大きな問題だと思います。
例えば、「私のオフィスは全部木でできています。」といったようなサステナビリティへの配慮を、一つの大きな会社やオピニオンリーダーが実行し、みんながそれを真似することでスタンダードになっていくと思います。なかなか下から実行してもうまくはいかず、マインドセットが変わらないので、トップダウンでやらなければいけないと思います。これは非常にもったいないことだと感じています。
例えばシンガポールは、非常に面白い施策を行っています。10年以上前から緑化施策を行っていて、建物が建つ前の地上の緑地を建物内で補完する制度や、屋上緑化に対して政府が助成金を支払う制度があるのです。それによって、表面温度は何度か下がっていますね。今ではシンガポール=森といったイメージがあります。
南米の国でもそういった施策を行っていることもあり、今後の日本の施策に注目しています。
これからのインテリアデザイン 建築とのコラボレーションのかたち
― これからインテリアデザインを通して取り組んでいきたいことや、注目されていることがあれば教えてください。

グエナエル・ニコラ氏が内装を手掛けたプレジデンシャルスイート
インテリアデザインはどこまで力があるのか、ということは気になっています。力というよりは、どこまで意味があるのか、ということです。
現状、まずは建築を決めて、建築に対してインテリアを決めて完成、という流れです。どこまでが建築、どこまでがインテリアデザイン、どこまでが家具、どこまでが設備と、今は分けて考えていると思いますが、もう少し早い段階でそれぞれがコラボレーションしないといけない。分けて考えていることで無駄が生まれていると思います。
インテリア=カスタマー、ユーザーなので、インテリアから建物を考えてほしいと思います。空間をつくり始める時は、どういう空間を見せたいか、というところからです。広くする、明るくする、軽くする、安くするとか、無駄をすべて無くして、そこから建物を考えてほしい。その上で、どのような構造で、どのような設備で、何ができる、と考えるようになると非常に面白いと思います。
また、こういった考え方に、ここ数か月でシフトしてきていると感じます。この時代はデザイナーにとって、すごく面白いと思います。
※2024年9月時点の内容です。